はじめに「自社株の評価方法が、大きく変わるかもしれない」そんなニュースを見聞きして、少し気になっている経営者の方が増えているように感じます。先に、いちばん大事なことをお伝えします。これは、まだ「決定」ではありません。国税庁が有識者を集めた会議で、見直しの「方向性」を議論している段階です。ただ、方向性はかなりはっきりしてきていて、実現すれば約60年ぶりとも言われる抜本的な見直しになります。つまり「まだ決まっていないから関係ない」ではなく、「決まってから慌てると、間に合わないかもしれない」テーマだと私は考えています。この記事では、次のことをできるだけかみ砕いて整理します。・そもそも自社株の評価とは何か・現在の評価方法の仕組み・今回の見直しのポイントと時期・誰に、どんな影響がありそうか・今から準備できること専門用語も出てきますが、その都度やさしく言い換えますので、ざっくりで大丈夫です。そもそも「自社株の評価」とは?なぜ相続・事業承継で重要なのか上場企業の株には、市場でついた「株価」があります。一方、非上場の会社(取引相場のない株式)には、その日いくらという値段が存在しません。では、オーナーが亡くなって株を相続したり、後継者に生前贈与したりするとき、税金の計算はどうするのか。ここで、決められたルールに沿って「相続税を計算するための評価額」を、いわば人工的に計算して出すことになります。これが「自社株の評価」です。ここが、多くのオーナーにとっての盲点だと感じています。会社の預金残高は把握していても、「自分の持っている自社株が、相続税の世界ではいくらと評価されるのか」を知らない方は、決して珍しくありません。そして、その評価額が大きいほど、相続税や贈与税は重くなります。やっかいなのは、自社株は上場株のようにすぐ売って現金化できないのに、相続税は原則として現金で納める必要がある、という点です。「評価額は大きいのに、払うための現金がない」事業承継でいちばん怖いのは、実はこの状態です。だからこそ、評価のルールがどう変わるのかは、オーナーにとって他人事ではありません。現在の評価方法をざっくり整理する今のルールは、少し複雑です。ここは全部を覚える必要はありません。「こういう仕組みで動いている」とイメージできれば十分です。大きく分けると、評価方法は2つの系統に分かれます。(1)原則的評価方式(オーナーや後継者など、会社を支配する側が使う)これはさらに2つの計算を、会社の規模に応じて組み合わせます。・類似業種比準方式:同じ業種の上場企業の株価などを参考に、配当・利益・純資産を比べて評価する方法。ざっくり言えば「よその似た会社を物差しにする」やり方です。・純資産価額方式:会社の資産から負債を引いた「中身の価値」で評価する方法。「解散したらいくら残るか」に近い考え方です。そして、会社を「大会社・中会社・小会社」に規模で区分し、どちらの方式をどんな割合で使うかを変えています。これが会社規模区分です。(2)特例的評価方式(少数株主など、会社を支配しない側が使う)・配当還元方式:受け取る配当を基準に、低めに評価する方法。従業員持株会や、ごく少数だけ株を持つ親族などが対象です。いったん整理すると、「支配する側は原則的評価(高くなりがち)」「支配しない側は配当還元(低くなりがち)」という2階建てになっている、と捉えてください。今回の見直しのポイントは何かでは、何が問題視されて、どう変わろうとしているのか。きっかけは、会計検査院からの指摘です。現在の評価方法だと、方式によって評価額に大きな差が出ることが分かってきました。たとえば、類似業種比準方式で計算した評価額の中央値が、純資産価額のわずか27.2%にとどまっていた、というデータが示されています。さらに、会社の規模が大きいほど、評価額が相対的に低く出やすい傾向も指摘されました。この「方式による差」や「規模による差」が、次のような問題につながっている、という問題意識です。・同じような会社なのに評価額が不公平になる・その差を意図的に利用した、行き過ぎた株価の引き下げ(租税回避)これを受けて2026年4月から、国税庁が有識者会議を開いて見直しの議論を始めました。そして先日、2026年8月20日の第5回会議で、国税庁が「たたき台」となる方向性を示しました。大きなポイントは2つです。・会社規模区分(大・中・小)を廃止する方向・会社の「収益力」を評価に反映させる方向(インカムアプローチと呼ばれる考え方。簿価純資産に、その会社が生み出す利益を上乗せして評価するイメージ)要するに、「規模でざっくり分ける」のをやめて、「その会社が実際にどれだけ稼ぐ力があるか」をより強く反映させよう、という流れです。なお、「評価方式を一本化するのか」「類似業種比準方式そのものを廃止するのか」といった細かい点は、まだ検討中で確定していません。ここは正直にお伝えしておきます。方向性は見えていますが、最終形はまだ固まっていません。いつから変わりそうか現時点で示されている想定スケジュールは、次のとおりです(あくまで見込みで、変わる可能性があります)。・2026年秋ごろ:議論の取りまとめ・2026年12月:税制改正大綱に記載・2027年ごろ:パブリックコメント(意見募集)・2028年1月1日(令和10年分):新ルールの適用開始を視野つまり、順調に進めば「約1年半後」から新しい評価に切り替わる可能性がある、ということです。事業承継の準備は、数字を整えたり、後継者と話し合ったり、時間のかかるものが多いです。「2028年」と聞くとまだ先に思えますが、準備の時間を逆算すると、それほど余裕はないと私は感じています。誰に、どんな影響がありそうかここがいちばん気になるところだと思います。ただ、ここは慎重にお伝えします。「全員の評価額が上がる」わけでも、「全員が下がる」わけでもありません。方向性から考えると、次のような会社は評価額が上がる可能性があります。・これまで規模区分の恩恵で評価が低めに出ていた会社・利益をしっかり生み出している(収益力の高い)会社一方で、収益力が高くない会社などでは、必ずしも上がるとは限りません。配当還元方式の見直しが入れば、従業員持株会や少数株主の評価にも影響が及ぶ可能性があります。つまり、影響は会社ごとに違い、現時点で「あなたの会社はこうなる」と断定できる段階ではありません。だからこそ、「うちはどっちに動きそうか」を早めに見ておくことに意味があります。今から準備できること不安を煽りたいわけではありません。むしろ逆で、「やることを整理すれば、過度に怖がる必要はない」とお伝えしたいです。今からできることを挙げます。✅ まず、現行ルールでの自社株の評価額を把握する(自分の会社が今いくらなのかを知らないと、変化の大小も判断できません)✅ 後継者と、承継の進め方・時期をあらためて話し合う(誰に、いつ、どう渡すか)✅ 納税資金の見通しを立てておく(評価額が上がった場合に、現金でいくら必要になりそうかを試算する)✅ 事業承継税制(納税を猶予・免除できる特例)の期限を確認する(特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、適用期限が2027年12月31日まで。使う可能性があるなら期限に注意)✅ 慌てて不自然な対策に飛びつかない(ルールが固まる前に急いだ結果、かえって不利になることもあります)順番としては、「まず現状把握 → 影響の見立て → 対策の検討」です。いちばん避けたいのは、「よく分からないまま、何もせずに改正日を迎えてしまうこと」だと考えています。まとめ・自社株評価の見直しは、まだ「決定」ではなく議論中。ただし方向性はかなり明確。・現行は「原則的評価(類似業種比準+純資産価額/規模区分)」と「配当還元」の2系統。・見直しの柱は、規模区分の廃止と収益力の反映。実現すれば約60年ぶりの抜本改正。・適用は2028年1月を視野。準備の時間を逆算すると、動き出すのは早いほどよい。・影響は会社ごとに違う。まずは「現状の自社株評価を把握する」ことから。よくある質問(FAQ)Q. もう改正は決まったのですか?A. いいえ、まだ決定ではありません。国税庁の有識者会議で見直しの方向性(たたき台)を議論している段階です。ただ、方向性は具体的に示されており、2028年1月の適用を視野に検討が進んでいます。Q. 今やっている事業承継対策は、無駄になりますか?A. 一概には言えません。ルールが変われば有利・不利が変わる可能性はありますが、「現状を把握する」「後継者と話す」「納税資金を見積もる」といった土台の準備は、どちらに転んでも役に立ちます。急いで不自然なスキームに飛びつくのは、逆にリスクになり得ます。Q. うちのような小さな会社にも関係ありますか?A. 規模区分の廃止が検討されているため、規模の大小にかかわらず影響を受ける可能性があります。「小さいから関係ない」とは言い切れません。まずは自社株の評価額を一度確認してみることをおすすめします。Q. まず誰に相談すればいいですか?A. 自社株の具体的な評価額の計算や申告は税理士の領域です。そのうえで、「納税資金をどう準備するか」「承継全体をどう設計するか」というお金まわりの整理は、私たちのようなFPも一緒に考えられる部分です。分からないことが分からない、という段階でも大丈夫ですので、気軽にご相談いただければと思います。最後にここまで読んでいただき、ありがとうございました。今回の見直しは、決まってから動くと間に合いにくいテーマだと感じています。とはいえ、必要以上に不安になる必要もありません。「まず自社株がいくらか把握する」——ここから始めれば十分です。うちの会社はどうなりそうか、何から手をつければいいか、気になることがあれば、一度ご相談いただければと思います。参考・出典・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」資料(第1回 2026年4月20日/第5回 2026年8月20日)・PwC Japanグループ「非上場株式の評価の見直し―有識者会議の動向と実務上の留意点」・税理士法人山田&パートナーズ「国税庁、非上場株式の評価方法見直しに向け、有識者会議を開催」・税理士法人FPC「非上場株式の相続税評価ルールが見直しへ――2028年適用開始を予定」・中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」/特例承継計画等の提出期限の延長免責本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務判断・商品の推奨を行うものではありません。制度は今後の議論により内容・時期が変わる可能性があります。具体的な株式評価や申告、税額の計算は税理士等の専門家にご確認ください。