個人年金保険は保険料が控除の対象となるので、年末調整で申告書の記入などを行う必要があります。しかし、サラリーマンの方は基本的に会社が納税の手続きをしてくれるので、年末調整についてあまり詳しくない方もいるでしょう。そこでまずこの章では、年末調整や個人年金保険の控除について、基本的な知識を解説します。年末調整とは年末調整とは、サラリーマンの方が納める正確な税金の額を確定させる手続きのことです。サラリーマンの給料は会社が源泉徴収で天引きして納税していますが、この納税額は必ずしも正確ではないので、年末に再度計算し直して正確な納税額を確定させます。個人年金保険は保険料が控除の対象となりますが、給与の源泉徴収の時点ではこれは考慮されていないので、年末調整で再度計算し直すことになります。 生命保険料控除の基礎知識生命保険料控除とは、支払った生命保険料に応じて、所得税と住民税が控除される制度です。社会保険料控除や扶養控除などと同じ、所得控除の一種となります。生命保険料控除には、一般生命保険料控除介護医療保険料控除個人年金保険料控除の3種類があり、それぞれ別枠で控除が設定されています。個人年金保険では、保険の種類や契約内容によって、一般生命保険料控除か個人年金保険料控除どちらかの対象となります。個人年金保険だからといって必ず個人年金保険料控除になるわけではなく、一般生命保険料控除に分類されることもあるのが注意点です。【生命保険料控除の種類】一般生命保険料控除死亡保険・学資保険・個人年金保険など介護医療保険料控除医療保険・がん保険、介護保険など個人年金保険料控除個人年金保険料税制適格特約が付加された個人年金保険 個人年金保険料税制適格特約とは個人年金保険は、個人年金保険料税制適格特約が付加されている場合は個人年金保険料控除の対象となり、付加されていない場合は一般生命保険料控除の対象となります。加入している個人年金保険が一般生命保険料控除の対象となった場合、もし他の生命保険で控除枠を上限まで使っているとそれ以上控除できなくなります。一方、個人年金保険料控除は一般生命保険料控除とは別枠なので、他の生命保険で一般生命保険料控除を上限まで使っていても控除できます。つまり、個人年金保険は個人年金保険料税制適格特約を付加したほうが節税効果が高くなります。よって、個人年金保険の年末調整を行うには、個人年金保険料税制適格特約について理解しておくことが重要です。個人年金保険料税制適格特約とは、以下の5つの条件のことをいいます。【個人年金保険料税制適格特約】年金受取人は契約者本人かその配偶者被保険者と年金受取人が同一保険料を10年以上払っている年金の受取開始が60歳以降である(確定年金または有期年金の場合)年金の受取期間が10年以上である(確定年金または有期年金の場合)契約者・被保険者・年金受取人は違いが分かりにくいですが、大まかに言うと契約者は保険料を支払う人、被保険者は保障の対象となる人、年金受取人は年金を受け取る人です。この3者は同一人物であることが多いですが、別な人物にすることもできます。しかし、個人年金保険料税制適格特約では、年金受取人は契約者本人かその配偶者、被保険者と年金受取人は同一でなければなりません。 生命保険料控除の対象になる個人年金保険契約等とは生命保険料控除に関する用語はやや分かりにくいので、ここで整理して理解しておきましょう。特に、個人年金保険の年末調整では、「生命保険料控除の対象になる個人年金保険契約等」とは何かを理解しておくことが重要です。「生命保険料控除の対象になる個人年金保険契約等」とは、「生命保険料控除の対象となる保険契約等」の中の一つです。そして、「生命保険料控除の対象となる保険契約等」とは、「生命保険契約等」「介護医療保険契約等」「個人年金保険契約等」の3つの総称です。「生命保険料控除の対象になる個人年金保険契約等」は、この3つのうちの「個人年金保険契約等」を指す用語です。さらに個人年金保険契約等は、平成23年12月31日以前に契約した「旧個人年金保険料」と、平成24年1月1日以後に契約した「新個人年金保険料」に分けられます。平成24年1月1日以前と以後では控除額が違うので、自分が契約している個人年金保険が、旧個人年金保険料か新個人年金保険料か確認しておくことは重要です。 年末調整で個人年金保険の控除を受けるメリット年末調整で個人年金保険の控除を受けると、所得税と住民税を節税できるメリットがあります。控除額が具体的にどれくらいになるかイメージできると、そのメリットも理解しやすくなるでしょう。そこでこの章では、個人年金保険の年末調整の控除額を求める具体的な方法の解説と、実際の事例を想定したシミュレーションを行います。 控除額を求める方法個人年金の年末調整で控除額を求める方法は、旧個人年金保険料か新個人年金保険料かで異なります。 旧個人年金保険料の場合平成23年12月31日以前に契約した旧個人年金保険料の、所得税と住民税の控除額の計算方法は以下のとおりです。個人年金保険料税制適格特約がない場合は、他に加入している生命保険の保険料と合算して計算し、一般生命保険料控除として申告します。【旧個人年金保険料の所得税控除額の計算方法】1年間に支払った保険料控除額25,000円以下全額25,001円から50,000円(保険料の1/2)+12,500円50,001円から100,000円(保険料の1/4)+25,000円100,001円以上50,000円【旧個人年金保険料の住民税控除額の計算方法】1年間に支払った保険料控除額15,000円以下全額15,001円から40,000円(保険料の1/2)+7,500円40,001円から70,000円(保険料の1/4)+17,500円70,001円以上35,000円 新個人年金保険料の場合平成24年1月1日以後に契約した新個人年金保険料の、所得税と住民税の控除額の計算方法は以下のとおりです。旧個人年金保険料に比べて控除額が減っていますが、新制度では代わりに介護医療保険料控除が新設されているので、生命保険料控除全体としての控除額は増えています。【新個人年金保険料の所得税控除額の計算方法】1年間に支払った保険料控除額20,000円以下全額20,001円から40,000円(保険料の1/2)+10,000円40,001円から80,000円(保険料の1/4)+20,000円80,001円以上40,000円【新個人年金保険料の住民税控除額の計算方法】1年間に支払った保険料控除額12,000円以下全額12,001円から32,000円(保険料の1/2)+6,000円32,001円から56,000円(保険料の1/4)+14,000円56,001円以上28,000円 節税効果・実際にいくら戻るのかシミュレーション前節で個人年金保険の控除額の計算式を解説しましたが、式だけではイメージが沸きにくいので、ここで実際の事例を想定したシミュレーションを試みます。 所得税率10%、加入期間30年、年間保険料35,000円、新個人年金保険料の場合新個人年金保険料で1年間に支払った保険料が35,000円の場合、前節の計算式から、所得税の控除額は(35,000円×1/2)+10,000円=17,500円+10,000円=27,500円住民税の控除額は(35,000円×1/4)+14,000円=8,750円=14,000円=22,750円となります。所得税率が10%なので、所得税の節税額は年間27,500円×0.1=2,750円住民税率は10%なので、住民税の節税額は年間22,750円×0.1=2,275円合計の年間の節税額は2,750円+2,275円=5,025円となります。加入期間は30年なのでこれを単純に30倍すると、トータルの節税額は5,025円×30=150,750円となります。ただし、所得税率や保険料は将来変わる可能性もあるので、この計算はあくまで予測値となります。所得税率20%、加入期間20年、年間保険料80,000円、旧個人年金保険料の場合旧個人年金保険料で1年間に支払った保険料が80,000円の場合、前節の計算式から、所得税の控除額は(80,000円×1/4)+25,000円=20,000円+25,000円=45,000円住民税の控除額は35,000円となります。所得税率が20%なので、所得税の節税額は年間45,000×0.2=9,000円住民税率は10%なので、住民税の節税額は年間35,000円×0.1=3,500円となります。合計の年間の節税額は9,000円+3,500円=12,500円となります。加入期間は20年なのでこれを単純に20倍すると、トータルの節税額は12,500円×20=250,000円となります。年末調整で個人年金保険の控除を受ける方法年末調整で個人年金保険の控除を受けるには、保険料控除申告書を提出する必要があります。申告書の書き方は特に難しいものではありませんが、初めての方や慣れていない方は戸惑うこともあるでしょう。そこでこの章では、年末調整で個人年金保険の控除を受けるための、保険料控除申告書の書き方と記入例を解説します。 保険料控除申告書の書き方保険料控除申告書には以下の4つの記入欄があり、個人年金保険は生命保険料控除の欄に記入します。 生命保険料控除地震保険料控除社会保険料控除小規模企業共済等掛金控除生命保険料控除の欄はさらに以下の3つに分かれており、個人年金保険は一般の生命保険料か個人年金保険料の欄に記入します。一般の生命保険料介護医療保険料個人年金保険料一般の生命保険料および個人年金保険料には以下のような記入項目があるので、保険会社から送付される生命保険料控除証明書の内容を書き写します。保険会社等の名称保険等の種類保険期間又は年金支払期間保険等の契約者の氏名保険金等の受取人(氏名・あなたとの続柄)新・旧の区分あなたが本年中に支払った保険料等の金額最後に保険料の控除額を計算して記入します。計算式は申告書に記載されているので、もし忘れてしまっていても大丈夫です。以上で個人年金保険での保険料控除申告書の記入は完了となります。 保険料控除申告書の記入例保険料控除申告書の具体的な記入の仕方は、一例としては以下のようになります。【保険料控除申告書の記入例】保険会社等の名称略称で可。「明治安田生命」「住友生命」など。保険等の種類証明書の「保険種類」の欄の記載内容を転記。「終身」「有期」など。保険期間又は年金支払期間「10年」「20年」「終身」など。保険等の契約者の氏名証明書に記載の契約者名を転記。保険金等の受取人(氏名)証明書または保険証券に記載の受取人氏名を転記。保険金等の受取人(あなたとの続柄)「本人」「妻」など。新・旧の区分契約日が平成24年1月1日以後なら「新」、以前なら「旧」と記入。あなたが本年中に支払った保険料等の金額証明書の「予定申告額」(または「予定支払額」)の欄に記載された金額を転記。 年末調整で個人年金保険の控除を受ける際の注意点年末調整で個人年金保険の控除を受ける際は、以下の4点に注意しましょう。 年末調整の対象とならず確定申告が必要なケースもある保険料控除の申告を忘れたら勤務先に申し出る保険料の控除証明書を紛失したら再発行してもらう転職したら転職先で年末調整を受ける ①年末調整の対象とならず確定申告が必要なケースもある個人年金保険の控除の申告は、年末調整でも確定申告でもどちらでも行うことができます。ただし、年収が2,000万円を超えている人や、災害による納税猶予を受けている人などは、年末調整の対象外となり確定申告が必要となります。 ②保険料控除の申告を忘れたら勤務先に申し出る年末調整で保険料控除の申告を忘れた場合は、勤務先に再年末調整を申し出れば修正することができます。再年末調整は1月末まで行うことができますが、会社側の事務処理の期間も考慮すると、もう少し早めに申し出たほうがよいでしょう。ただし、もし1月末までに勤務先に申し出ることができなくても、確定申告すれば控除を受けることができます。さらに、年末調整は受付期間が5年間あり、必ずしも翌年すぐに申告しなければならないわけではありません。年末調整を忘れて確定申告のやり方もよく分からないなら、来年あらためて年末調整すれば大丈夫です。 ③保険料の控除証明書を紛失したら再発行してもらう年末調整で個人年金保険の保険料を控除するには、控除証明書を添付する必要があります。もし控除証明書を紛失した場合は、加入している保険会社に問い合わせれば再発行してもらえます。控除証明書は通常10月か11月頃に発送されるので、年末調整まで2,3か月ほど保管しなければならず、そのため紛失するケースがよくあります。紛失しても再発行できるので問題ありませんが、手間もかかるのできちんと保管して紛失しないように注意しましょう。 ④転職したら転職先で年末調整を受ける年の途中で転職した場合は、年末の時点で在籍している会社で年末調整を行います。前の会社を退職した際に退職時までの源泉徴収票が発行されているはずなので、それを転職先の会社に提出すれば転職先の会社で年末調整できます。 まとめでは最後に本記事のポイントをまとめます。個人年金保険は年末調整で所得控除の対象になる控除の種類は「一般生命保険料控除」か「個人年金保険料控除」個人年金保険料税制適格特約を付加した場合は個人年金保険料控除となる契約日によって新個人年金保険料と旧個人年金保険料に分かれる控除を受ける際は以下の4点に注意。年末調整の対象とならず確定申告が必要なケースもある保険料控除の申告を忘れたら勤務先に申し出る保険料の控除証明書を紛失したら再発行してもらう転職したら転職先で年末調整を受ける年末調整における個人年金保険の所得控除は、正しく申告しないと損をする可能性もあります。もし不明点があれば、保険のプロに相談しましょう。